キャプテン・イッシー

第18話 「私のサンタさん」 2002.Dec.26              

 私の所属する地域のヨット界には密かにサンタさんと呼ばれる三人の 男が居た。 その内の一人、35年来の友人が先月の初めに、日頃語っ ていた夢を果せず還暦過ぎの若さで他界して同じクラブの仲間たちに衝撃を与えた。
 今年もクリスマスが来た。  その彼が天国からソリならぬヨットに乗って舞い降りて来て、10人は乗 られるそのヨットを私にプレゼントしてくれた。  
・・・・・・・・・・真相は赫赫然々である。
 彼の所有するヨットは小さくとも健在であるが、遺族にそれを乗り継ごうと言う気持ちが無いから、ただの粗大ゴミに変じてしまった。 業者に処分を頼めば数十万円、放置すれば罰せられる、「とかくこの 世は住みにくい・・・」と夏目漱石が言ったかどうかは別にして、最善の策は売り払う事である。  この不景気で買い手が付かなければ、只でも遣ってしまえばこの先費用が掛からなくて次善の策ではある。  海を走りたかった本人の遺恨と処分したい遺族双方の気持ちを考えて、捨て値安値なら私が買取る事を決意した。 
 船外機はピカピカしているし、オートパイロット(自動操舵装置)も真新 しい。 航海記器のGPSや無線機は機種が古くはあるが箱に入ったま まで世間の垢で毒されていない。 悪友曰く「船外機を買ったらヨットがおまけに付いて来たようなものじゃ」  購入時当初の値段の10分の1以下で貰い受けても遺族には喜ばれ、 海のゴミ処理問題解決に貢献し、強いて言えば白帆を浮かべて瀬戸内海の景観向上に寄与すると一人悦に入っているのである。  何しろこのヨットはここ6年間ただの一度も海に浮かんだ事が無い。
 実は、彼らのサンタ伝説はこれに由来するのである。  乗れない、乗らない、持てるだけ・・・・の男が三人居た。 彼らは偶然にも その苗字の下に「田」の字が付いていた。  そこで誰言うともなく「持て男、サンタ(三田)さん」と密かに呼ばれるよ うになった・・・・と言うのがサンタ伝説の真相である。
 乗りかかった船とは言え、私の所有艇はこれで三隻にもなる。
 願わくば、難問山積(三隻)しなければ良いが・・・・・・・・。