キャプテン・イッシー

第19話 「プロジェクトX-スエズ運河掘削」 2003.Jan.23              

 先日のNHKの「プロジェクトX-スエズ運河掘削」を見て冬眠中の目が醒めた。
  あの番組は、何度見ても感動を呼ぶ。 彼らの苦労とその業績を知り改めて日本人を誇りに思うのだった。 先日のプロジェクトX「スエズ運河掘削」の主役「水野組」は広島にある 現在の五洋建設(映像のバツクの巨大な掘削機の船体に書かれてあ る事からの想像)の前身という事で更なる関心が湧き、強い感情移入 を伴い、手に汗、目にもうっすら汗をかいた。 その時、私の脳裏に青春のひとコマが浮かび上がった。
  成人式を終えたばかりの頃のことであった。 ベニヤ板で作ったヨット に友人と乗り組み、二十四の瞳で有名な小豆島まで走った。
 昼を夜に継ぎ走って土庄港の手前まで来た時、夜半の嵐が襲ってきた。  風は真向いの風で目的地の方から風浪が襲う。  エンジンは無い。頼りのロープは切れそうになる。 真夜中の港入口 は確認が取れない。 これ以上は風に上れない。
 その時私は観念した。 万事休す。
 風下へ向かうしか無い。だがこの方法だとヨットは不安定に揺れ、お まけにブレーキが利かない。
 ふと風下遠方に目をやった。風下の延長よりやや西に夜間操業の浚 渫船の灯が見えた。 転覆させようとする風浪に、ヨットを騙し騙し舵を 取った。  全員は漆黒の海に引きずり込まれないようにと大きく傾ぐ船体にしが み付いた。
 浚渫船の灯火が間近に迫ってきた。 小さな錨を用意した。  ヨットをその浚渫船にぶつけるように近づけた。 錨を持って立っている 友人に声を掛けた。
 「錨を相手船の何処へでも引っ掛けろ!」  錨を投げた。
 相手船のどこかに引っ掛かった。
 ロープがピーンと張 った。
 ヨットの行き足が止まった。
 助かった。 
 浚渫船の船長が近くの島に構えている出張事務所の宿直員を無線で 呼んだ。   気の毒にも寝入りばなを起こされて急いで曳航の船がやってきた。  彼らの港へ曳航してくれた。 港の一隅にもやいを取った。   曳航してもらった船の長に、恐る恐る私は聞いた。
 「幾ら払ったらええ(良い)ですか?」  彼は怒鳴った。
 「そんな事心配せんでええ。はよう寝ろ」  安堵して、狭いキャビンの床に崩れるようにして寝た。
 穏やかな島の朝が来た。     浚渫船の船体に大書してある会社の名前に陽が射した。  
 「水 野 組」